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執筆者の写真中島桂一 一級建築士事務所

「たちまちできちゃったけど あんなので大丈夫なんかね-?」

更新日:2020年2月12日

 隣近所で工事が始まったかと思うとたちまち家が出現する、という光景を目にしたことがあると思います。そして「たちまちできちゃったけど、あんなので大丈夫なんかねー」と噂になります。

 大工さんが建て前をしてから半年近くかけて家を作っていた時代を経験している世代にとっては、あまり工期が短いと「何か手抜きをしているのではないか」とか、「仕事が雑なのではないか」などと心配になるのは無理もありません。しかし、「たちまちできちゃった家」の問題点は、もっと他のところにあるのです…  一般的に家づくりというと、現場で職人さんがトンカンと工事しているイメージが浮かびます。だから家の良し悪しは大工さんの腕で決まる、となんとなく考えられてきました。実はそこに落とし穴があります。

 どんなプロジェクトにも計画(PLAN)と実行(DO)があるように、「家づくりというプロジェクト」にも、「設計」と「施工」があります。設計は「何を作るか」を決める作業です。施工は「どうやって作るか」を進める作業です。大工さんが活躍するのは「どうやって作るか」の一部分なのです。



 どんな土地にどんな人が住むかを調査した後、要望をお聞きし、それを基にたたき台のプランを考えて提出。そこで問題点を検討するところから設計打合せがスタートします。間取り、概算見積、窓や収納、内外装、設備などの詳細打合せ、詳細見積、予算調整、と何度も行きつ戻りつを繰り返した後、ようやく契約に至ります。そして役所等への申請。と、ここまでが設計段階です。そして、施工段階、引渡しへと続きます。「何を作るか」、つまりどんな家ができるかは、設計段階で決まってしまうのです。

もしも、設計打合せ期間を十分に確保し、その分施工期間を「ムリ、ムラ、ムダ」のない合理的なシステムによって短縮することでプロジェクト全体の工期を抑えるのなら、住む人にとってメリットがあると言えます。つまり「設計は念入りに、施工は合理的に」ということです。


 しかし、実際は現場工期が極端に短い場合は、設計期間も短い場合がほとんどです。法令、地盤調査→家族構成と要望の聞き出し→プラン提出、とここまではさほど問題はないのですが、そこから、プランと同時に見積提出、一足飛びに契約→施工へと行ってしまうのです。肝心な設計打合せがそっくり抜け落ちているのが最大の問題点です。「キッチンのタイプやクロスの色を選ぶくらいしか打合せが無かった」という話もよく聞きます。


 工法、工期など「どうやって作るか」ばかりに気をとられ、肝心の「何を作るか」がほとんど論じられることなく、「理解」も「納得」も無いまま、「あれよあれよ」という間に家が出来上がってしまうのです。

「数千万をかけてクロスの色を選んだだけか」「これが本当に自分の家なのか」「自分のお金で『誰かの家』を作ってしまったのではないか」「これから一生、この『誰かの家』に自分が住むのか」

 結局、「家づくりなんてこんなものさ」「仕方なかったんだ」という諦めの気持ちで一生その家に住むことになるのです。はたしてこれが、望んでいた結末でしょうか。


 現代の家づくりの場合、「何を作るか」はほとんど計画段階で決められ、現場では設計図通りに作ることが求められます。だからこそ、設計に十分な時間をかけ、自分や家族の将来のために理解納得の計画を練ることが、家づくり成功の鍵なのです。


住宅設計士 中島桂一著 「家づくりの 本当はどうなの?」より  *著書の詳細はこちらのペ-ジをご覧ください→https://www.nakajimarinsan.com/book


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